読書記録84

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

“ターフを走るサスペンス”、ディック・フランシスの<競馬>シリーズ。
本書は’79年発表のシリーズ18作目にあたり、英国におけるミステリーの頂点、
同年度「CWA(英国推理作家協会)賞」ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)、
2度目となるアメリカにおけるミステリーの最高峰、’81年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」のベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)をダブル受賞した。
また早川書房の『ミステリ・マガジン』のアンケートをもとに’92年に刊行された『冒険
・スパイ小説ハンドブック』において、「冒険小説ジャンル」で第8位にランクインした。
元騎手で隻腕の競馬調査員シッド・ハレーが’65年の第4作『大穴』に続いて再び
登場する。
‘私’ことシッド・ハレー31才のもとに、ほぼ同時に4つの調査依頼が続けて
舞い込んだ。なかでも15年来の旧知である人気調教師の妻ローズマリイは、夫の
調教した馬が体調万全で本命馬として臨んだレースでことごとく惨敗。来るべきレースで同じことが起こらないように調べて欲しいと言うものだった。‘私’は、他の、別れた妻が被った詐欺事件やジョッキイ・クラブの理事からの成績不振馬の調査依頼、そこの保安部長からの部下の不正疑惑の調査と並行して、7才年下の仲間、チコ・バーンズの協力のもと精力的に動き出す。
読みどころは、‘私’が、過去の花形騎手としての栄光を捨てきれず、隻腕となり電気仕掛けの片腕を持つはめになったことにこだわりを持っており、一度は脅迫に屈する形でパリに潜伏しながらも、帰国後“再生”して果敢に真相究明をはかるところである。
別れた妻、その父親である退役海軍少将、調教師や馬主、獣医たちとの騎手時代
からの人間関係・信頼関係をからめながらストーリーは展開する。そして意表をつく
真相を含め、それぞれの事件を解明し、‘悪者’と対決。“恐怖からの復活”を果たした‘私’をみることができる。