読書記録86

wakaba-mark2011-06-18

汚れた街のシンデレラ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

汚れた街のシンデレラ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

今や“驚愕のどんでん返し”で世界のミステリー界をリードするジェフリー・ディーヴァーの’89年発表の<ルーン・トリロジー>シリーズの第1作。このあと『死の開幕』
(’90年)、『Hard News』(’91年、未訳)で3部作となっている。
ディーヴァーにはこの前後に『VooDoo』(’88年、伝説のデビュー作)『Always a Thief』(’89年)『Mistress of Justice』(’92年)の諸作があるらしいが、邦訳はおろか本国
アメリカでも入手困難なコレクターズ・アイテムと化しているそうなので、本書が実質的なデビュー作といっていいだろう。本書も今やファンの間で希少本として中古本市場
では高額な値が付いている。
ルーン−本名ではない−はマンハッタンの<ワシントン・スクエア・ヴィデオ(WSV)>というレンタル・ヴィデオ店の20才の店員。黒と紫に染めたウッドペッカー・カットの髪、黒のストレッチ・パンツに黒シャツ、左腕には27本ものブレスレットをつけたかなり
パンクな女の子。彼女は契約条項にはない延滞ヴィデオの回収に出かけた先で、
初めて死体を目にする。70才の客がアパートで射殺体となっていたのだ。彼は1ヶ月
くらい前にヴィデオ店の現金会員になり、1947年製作の、原書のタイトルと同じ
『マンハッタン・イズ・マイ・ビート』という作品を18回も借りていた。
現実の銀行強盗事件と盗まれた百万ドルを着服した警官の話をベースにしたその
作品から、ルーンは、百万ドルは今もどこかで眠っていると判断。かくして彼女の、
友人・知人を巻き込んでの、ルーンにとってまるで“夢と魔法の王国”のような
マンハッタンの宝探しの冒険が始まる。
ディーヴァーの最初期の作品ながら、人気ベストセラー作家となった今を彷彿させる
スピーディーな展開、お約束の二重三重の“どんでん返し”も見られ、なんといっても
全編にわたっての初々しいポップな雰囲気と映画の薀蓄に、ディーヴァーの原点を
見たような気がして楽しく読むことができた。