読書記録38

鴉よ闇へ翔べ (小学館文庫)

鴉よ闇へ翔べ (小学館文庫)

ケン・フォレット名義のデビュー長編でMWA賞を受賞した『針の眼』と同じく、第二次
世界大戦時冒険小説。’03年、「このミステリーがすごい!」海外編で第18位に
ランクインしている。
時は1944年6月、連合軍は対ドイツ一大反抗作戦ノルマンディー上陸作戦を計画
していた。作戦を成功させる鍵は、敵のベルリンとロンメル将軍の防衛軍を繋ぐ
通信網を破壊することにあった。ここに女性だけの寄せ集めの6人のチームが組織
され、ドイツ占領下のフランスへ侵入する。チームを率いるのは美貌のイギリス軍
秘密機関スペシャル・オペレーションズ・エグゼクティヴ(SOE)のフリック・クレア少佐。任務遂行までの猶予はわずかに9日間。
読みどころは、彼女たちと、任務を成功させじと迎え撃つ、ロンメル将軍直属の
情報将校、冷酷無比で拷問による尋問の名手ディーター・フランクとの攻防である。
クレアは持ち前の“危険を察知する勘”により、幾たびかの危機を乗り越えるのだが、その虚々実々の駆け引きはスリリングである。
戦時中ということで残忍な拷問や処刑、命を奪う銃撃戦のシーンも多く見られるが、
適度なロマンスもあり、フランスのレジスタンスやドイツのゲシュタポを含めた敵味方のこの息詰まる騙しあいや追跡は実にリアルかつサスペンスフルで、冒険スパイ小説の醍醐味と楽しさを味わうことができる。
ケン・フォレットは、史実を基にして、その襞の間に見え隠れする事実の断片を
膨らませ、タフで、勇敢で、機転が利くヒロインを生み出し、それぞれが魅力的な個性を持つ女性ばかりのユニークな工作員の活動を、極上のタイムリミット・エンターテインメントとして創り上げた。