今日読み終えた本
- 作者: 松本清張
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 1995/05/01
- メディア: 文庫
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彼は一部のマニアの間でのマイナーな存在だった「探偵小説」を、“社会派”「推理小説」として、一般読者にも受け入れられるメジャーな存在にしたのである。
かく言う私は、実は、彼の作品は今まで『点と線』しか読んだことがなく、「本格パズラー」ファンのひとりとして、松本清張という存在は対極に位置するものだった。昨今彼の作品がいくつか(『砂の器』、『黒革の手帖』)ドラマ化され、結構面白かったので、手近な短編から読んでみようと思ったのである。
本書は昭和31年にまとめられて単行本化された短編集である。そして昭和32年度の「第10回日本探偵作家クラブ賞・短編賞」を受賞している。いずれも私が生まれる前の、さらには『点と線』でベストセラーを記録して一世を風靡する以前の、著者初期の6つの短編だ。
時代背景の古さと、短編という制約の中、動機の不十分さ、結末のあっけなさは否めないものの、それぞれの内容は伏線、逆説、罠、人間洞察、ドンデン返しと推理小説のテクニックが駆使されていて、かつ「本格謎解き」の要素もある。作品によっては手記や検事調書など、表現にも工夫が凝らされており、ストーリー展開も会話部分が多く、比較的短いセンテンスでスピード感があり、意外にも(?)面白く読めた。
いずれも、推理小説の作品を依頼されて書いたものではなかったそうだが、物語の体裁はともかく内容は新聞の“社会面”をにぎわすようなリアリティーの強い推理サスペンスとなっていた。
最近、また彼のブームが静かに起こっているという。そろそろ絵空事的設定だけが主眼の単なる本格ミステリーでは読者の期待に応えられず、リアリティーを追求した彼のような社会性に富んだミステリーが注目されるようになってきたのだろう。