今日読み終えた本

君たちに明日はない

君たちに明日はない

荻原浩の『明日の記憶』と共に、’05年度「第18回山本周五郎賞」を同時受賞した、
5編からなる連作短編集である。
村上真介は33才。リストラ請負会社『日本ヒューマンリアクト(株)』に所属している。
今日も今日とて依頼先の企業の会議室を借りて、23才・美形のアシスタント・川田
美代子を従えて、先方の人事部になり代わってリストラ対象者との面接だ。いや、面接とは名ばかりで、実際は自主退職の督促をするのだ。何人辞めさせたかという実績が、ヒューマンリアクトという会社に対する評価、ひいては会社での彼個人の評価にもつながるのである。
相手先企業もさまざま。建材メーカー、玩具メーカーメガバンク、コンパニオン派遣会社に音楽プロダクション。被面接者にしてみれば、人生の危機・ターニングポイント、
養うべき家族もいれば家のローンもある。当然面接の場では修羅場が演じられる。
私もこの手の話には、年齢的にもまったく縁が無いわけではないので、何となくわが身に置き換えてみると、身につまされる。
ところが真介は、「おれはいったい何をやっているんだろう・・・。」と思いながらも、まんざらこの仕事が嫌いなわけでもなさそう。彼なりのポリシーを持ち、真面目に取り組み、事前の準備も怠り無く、きちんと仕事をする。実績も着実に上げているようだ。
反面、第1話に出てきた8才年上のリストラ対象の建材メーカーOLと、ちゃっかり恋人関係になってしまったりする。
本書は、リストラという今日的な重いテーマを扱いながら、村上真介というキャラを緩衝材にして、笑って、唸って、泣かせるストーリーに、上手く仕上がっている。