今日読み終えた本

カリフォルニア・ガール (ハヤカワ・ノヴェルズ)

カリフォルニア・ガール (ハヤカワ・ノヴェルズ)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」
・通称エドガー賞の’05年度最優秀長編賞受賞作である。
T・ジェファーソン・パーカーは『サイレント・ジョー』で’02年度にも同賞を受賞しており、長いエドガー賞の歴史上まれに見る、二度目の受賞という快挙を成し遂げた。
また本書は、’05年、「このミステリーがすごい!」海外編第6位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第11位にもランクインしている。
1968年10月、カリフォルニア州南西部の都市タスティンのオレンジ出荷工場の廃屋で、頭部を切り落とされた若い女性の死体が発見された。オレンジ郡保安官事務所のニック・ベッカー部長刑事は捜査を開始する。被害者はニックが子供の頃から知っている女性だった。初めて殺人事件の指揮をとるニックは、兄で牧師のデイヴィッドや、弟で新聞記者のアンディの助力を得ながら、被害者の込み入った人間関係を調べていく・・・。
物語は、この殺人事件を横軸に、ベッカー兄弟がたどるアメリカ60年代を縦軸にしつつ展開してゆく。ベトナム戦争によって増大してゆく社会不安、ロックをはじめとする
大衆娯楽や、ドラッグとセックスを賛美するカウンター・カルチャーなど、ひとつの時代を象徴する内容がこれでもかと詰め込まれている。
本書がすぐれているのは、そんな時代背景が生んだ最悪の病巣として、猟奇的な
殺人事件をテーマにしながらも、あくまでメインモチーフを“家族の絆”としているところだろう。時に反発しあい、また時に理解しあう兄弟・家族の変わり行く姿が、感傷を交えずに描かれている。
本書は、変動する60年代を中心としたアメリカ戦後史と、兄弟・家族の絆、男女の愛憎を見事に描ききった、ミステリーというよりは一流の文学作品のような感動作である。