今日読み終えた本

有罪答弁 上 (文春文庫)

有罪答弁 上 (文春文庫)

有罪答弁 下 (文春文庫)

有罪答弁 下 (文春文庫)

推定無罪』、『立証責任』に次ぐ、スコット・トゥローの第3作。
’95年、「このミステリーがすごい!」海外編第6位にランクインしている。
法律用語をタイトルにしているが、法廷場面は出てこない。大手法律事務所に籍をおく中年の窓際弁護士が、事務所の金数百万ドルを持ち逃げした疑いのある行方不明の同僚を探せと事務所のお偉方に言われ、その調査経過を口述した録音テープというのが本書のスタイルである。
この一人称叙述がなかなかいい。主人公の48才のマロイは、元飲んだくれで、女房に逃げられ、ふてくされたひとり息子をいやいや扶養している。彼はがぜん張り切って調査に乗り出すのだが、くだけた語り口で推理や内省や回想や怨念その他諸々を
混ぜ合わせた口述を展開する。そして彼は同僚を追ううちに、さらに巨大な悪の壁に
つきあたる・・・。
また、調査の過程であらわにされる関係者一同の実像はなかなかユニークである。
夢想に生きる奇人の弁護士や、腹芸の達人弁護士、手ごわい経理係、マックに執拗に絡みつく悪徳刑事など・・、よくもこれだけのキャラクターを集めたものである。法律自体は無味乾燥でも、そこに関わる人間たちの人生模様はいかに深淵、複雑であることか。ストーリーは彼らの素顔と思惑が暴露されるのにともなって、マロイの目論見が形を成してゆき、やがて真相が明らかになる。そして彼は、いったんは見失っていた自分のアイデンティティーと人生を再発見し、取り戻してゆくのである。
本書は、リーガルサスペンスの枠を超えた、中年男の人生回帰の物語である。