今日読み終えた本

決壊 上巻

決壊 上巻

決壊 下巻

決壊 下巻

吉田修一が『悪人』を書いたように、同じ純文学系の平野啓一郎が「殺人事件」をモチーフにした小説を書いた、というのでミステリーファンの私としては初めて彼の作品を手にとって読んでみた。しかし、ボリューム満点の本書は、いささか難解だった。
上巻の終わりのほうになってやっと事件が起こる。2002年10月、全国各地で次々と男性のバラバラ死体が発見される。それぞれの遺体には社会からの“離脱”を呼びかける犯行声明が付けられていた。やがて被害者は宇部市に住む平凡な会社員と判明し、前代未聞の広域死体遺棄事件に発展する。
京都府警の捜査本部は、被害者の兄のエリート国家公務員を容疑者として逮捕する。だが、彼は断じて口を割らない。やがて鳥取市で起きた少年犯罪から意外な犯人が浮上し、さらに東京で連続2件の爆弾テロ事件が勃発して、事件はまったく予想外の悲劇的・絶望的な結末を迎える。
こうした社会派ミステリーの枠組みを縦軸に、作者はネット社会の闇、いじめ、不登校、ひきこもり、家族崩壊、報道被害といった現代の抱える社会問題を横軸として物語に取り込んでいる。そして各地の方言で語る個性的な登場人物たちが、生々しくも壮大な思想ドラマを展開する。
おりしも、東京・秋葉原の無差別殺人や八王子駅ビルの書店でのアルバイト女子学生殺人という衝撃的な事件が続けて起きた。犯人はいずれも「誰でもいいから殺したかった」と供述したという。いったいなぜ、こんな無気味な事件が続くのか。“通り魔”はどこから私たちのところへやってくるのか。
本書は、現代社会が直面するこの難問に真正面から取り組んだ、文明批評小説の
力作である。