読書記録18

バスジャック (集英社文庫)

バスジャック (集英社文庫)

後に江口洋介主演で映画にもなった『となり町戦争』で’04年に「第17回小説すばる新人賞」を受賞してデビューした三崎亜記の初作品集。「小説すばる」の’05年2月号から9月号の間に掲載された7つの掌・短・中編からなっている。
「二階扉をつけてください」・・SFチックな、ブラックユーモア漂う、本書のなかでも異質な一編。
「二人の記憶」・・恋人同士の微妙な記憶のズレが、結末には見事にまとまる佳作。
「バスジャック」・・バスジャックが日常として認知されてしまった世の中の不条理を、
ひねりをきかせて仕上げた表題作。
「動物園」・・動物を幻視で見せる超能力を持った女性主人公(しかもそれは企業として成り立っているというから驚いてしまうのだが)の行動をあくまで現実的に表現した
逸品。
「送りの夏」・・本書で一番長い作品。失踪した母を追って家出した小学校6年生の
麻美が、海辺の別荘で見たのは、今は失った、愛する人と暮らす不思議な人々の
共同生活だった・・・。自分たちにとって大切な存在との別れがたい心情、そして
やがて訪れる永久の別れを抒情豊かに描いた秀作。
他のふたつの掌編も含めて、本書は、三崎亜記ならではの「日常」のなかの「非日常」をうったえた、ひと筋縄ではいかない作家としての独特で特異な才能を、いかんなく
発揮した一冊である。