読書記録19

その日のまえに (文春文庫)

その日のまえに (文春文庫)

映画化もされた、重松清のベストセラー連作短編集。「別冊文藝春秋」の’04年3月号から’05年7月号の間に掲載された7つの短編を、順序を入れ替えたり、改稿し改題したりした作品集である。
後半の3作「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」がつながったひとつの
ストーリーとなっていて、前半の4作が、単発作品としても秀作ぞろいだが、微妙に
それらと関係している。
テーマは愛する人の「死」である。それはクラスメイトであったり、自分自身であったり、母であったりするが、メインの3作では最愛の妻である。そこには、主人公が夫として、父親として痛々しいまでに愛する妻を思いやる姿が独特の重松節で描かれている。
私は、特に「その日のあとで」のなかで、妻が意識のなくなる二、三日前に書いた
という夫への手紙の一文にとても感動した。
本書は、突然訪れる「死の告知」「余命」そして「死」に対して、いたたまれずに戸惑い、嘆き、悲しみ、しかしどうしようもなくて静かに受け入れ、見送るしかない人々を
見事なまでに表現しており、裏を返せば、日常のなかにあるあたりまえと思われる「生」と「幸せ」の意味をあらためて見つめさせてくれる、落涙必至の物語である。