読書記録26

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ジョン・ハートの、デビュー作『キングの死』に次ぐ第二作の本書は、アメリカにおける
ミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」ベスト・ノヴェル(最優秀
長編賞)の’08年度受賞作である。
殺人の濡れ衣を着せられてノース・カロライナの農場をあとにした‘僕’ことアダムは、5年ぶりに帰郷する。しかし、待っていたのは戸惑う家族や知人、昔の恋人だった。
そして、決して歓迎されない‘僕’はまたしても新たな殺人事件の渦中に巻き込まれて
ゆく・・・。
ストーリーは、幼い頃、母親が自殺するという辛い過去や、今なお5年前の事件の影を抱える‘僕’が、もがきながらも事件の真相を追う形で進行してゆく。最後の最後まで真実は明らかにならないが、その間にも‘僕’の周りで次々と動きがあり、‘僕’の心象風景を中心とした、結末までの話の持って行き方が実にうまい。
謝辞で著者ジョン・ハート自身が述べているように、この小説は、ミステリーの形を
とりながら、実は、‘僕’自身や‘僕’を取り巻く人々の友情や恋愛、そして兄弟や親子の絆を哀しくやるせなく描いた、謎解きは二の次といってもいい、家族をめぐる物語
である。
翻訳ものながら、読んでいて、その文章の一語一句がこれほど胸に染み入る物語はなかなか出会えないという気がした。
本書は、さすがはエドガー賞の栄誉に輝いた、味読に値する傑作である。