読書記録33

十の罪業 RED (創元推理文庫)

十の罪業 RED (創元推理文庫)

巨匠エド・マクベインが編んだ、現代を代表する人気作家たち10人の書き下ろし中編ミステリー・アンソロジー
<RED>と<BLACK>の2分冊だが、本書<RED>では、編者マクベイン本人による“87分署”ものや、ドナルド・E・ウェストレイクの“ドートマンダー”もの、ローレンス・ブロックの“殺し屋ケラー”ものなどシリーズキャラクターが登場する作品も楽しめる。
「憎悪」エド・マクベイン:本書原書刊行の直前にマクベインが逝去したので、これが
最後の<87分署>シリーズ作品となった。キャレラ刑事やマイヤー刑事など、
お馴染みの面々がイスラム教徒のタクシー運転手連続殺人を追う。
9・11事件の影響を色濃く反映している。文中の刻々と経過する時刻表示から、
警察捜査小説らしい臨場感と緊張感がただよう。
「金は金なり」ドナルド・E・ウェストレイク:犯罪プランナー・ドートマンダーとその仲間の
ケルプは、南米の小国の紙幣偽造に一枚噛むのだが・・・。
「ランサムの女たち」ジョン・ファリス:天才画家ランサムに、一年間生活を共にし、絵のモデルになってほしいという奇妙で型破りな依頼をされたエコー。婚約者で警官の
ピーターは気が気ではない。彼は、過去にランサムのモデルをつとめた女性たちを
訪ねるのだが、彼女たちは皆、悲劇に見舞われていた・・・。
「復活」シャーリン・マクラム:時は20世紀初頭。舞台はアメリカ南部。老いた黒人が
語る自らの半生は、奴隷制度や南北戦争、当時の医学事情など興味深い内容
だった。
「ケラーの適応能力」ローレンス・ブロック:これもまた9・11の惨劇が殺し屋ケラーに
与えた大きな影響を、ケラーの心情と、彼の“仕事”の遂行ぶりを通して描いている。
本書<RED>ともう一冊の<BLACK>は、2冊あわせて1377ページにも及ぶ
大部の文庫だが、そんなに分厚さを感じさせないほど、バラエティーに富んだ10作品を、時を忘れて楽しむことができる逸品ぞろいのアンソロジーである。