読書記録40

女刑事の死 (ハヤカワ文庫 HM (309-1))

女刑事の死 (ハヤカワ文庫 HM (309-1))

アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」の
’85年度ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)受賞作。
ある女性刑事が、車に乗りこんでイグニションにキーを差しこみ、クラッチをふんだ
瞬間、爆発が起きて彼女は即死した。28才の誕生日だった。報せを受けた唯一の
肉親、10才年上の兄ベン・ディルは、ワシントンから猛暑の南部の故郷へ帰る。非業
の死をとげた妹の事件の真相を解明したいのだが、彼は同時にアメリカ上院調査
監視分科委員会の顧問という身分で、若い上院議員と委員会の野党法律顧問からの密命も受けていた。それはその地に暮らすベンの旧友であり、かつ武器の売買で財を成したジェイクに接触し、同業で逃亡中のクライドの動向を探るというものだった。
同時進行で行動するベンの前に、妹の美貌の弁護士アンナが現れ、そして妹の
分不相応な暮らしとベンを受取人として妹がかけた多額の生命保険が明らかになる。一介の女性刑事の身でどうやって金を工面していたのか、そうしている間にも妹に
関係する者たちが、殺害されてゆく。謎は深まるばかりだ・・・。果たして妹は誰に何のために殺されたのか。ジェイクとクライドに対する彼の任務の行く末は・・・。またベンとアンナの恋の顛末は・・・。
本書は、幾重にも重なったプロットと、多彩な登場人物たちが織りなす複雑な駆け引きが、ベンを中心として、感情を排した乾いた文体で進行してゆく。ロス・トーマスは
通好みの作家として支持を得ているとのことだが、本書はなるほどエドガー賞受賞に値する、“大人”のハードボイルド・サスペンスだと思った。