読書記録50

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

江戸川乱歩が「奇妙な味」の代表作と評した、巻頭の「二壜の調味料」。まず読者は
この結末にいきなりカウンターパンチを食らうことになる。
本書は、明晰な頭脳の持ち主リンリーをホームズ役に、そして同居人の調味料の
セールスマン、スメザーズを‘わたくし’ことワトスン役にして、スコットランド・ヤード
アルトン警部が持ち込む難事件を次々に解決してゆく9編のシリーズ短編を含めた
26編からなる短編集である。
リンリーの物語の中ではひとつのクロスワードパズルからズバリ犯人像を割り出す
「手がかり」がその代表例といえるだろう。
後半には引退したリプリーという元刑事から‘私’が話を聞くという懐古風の物語が
いくつか入っているが、そこでは不可解な事件が、驚愕の真相をともなって語られる。
しかし、いずれも最終的な判断を読者にゆだねる様な終わり方をしている。
全26編すべて、証拠を丹念に追い詰めて解決してゆくのではなく、短編らしく、一見
不可能と思われる犯罪が一瞬の元にその謎を解かれる、といった奇想に満ちた趣向の作品ばかりである。そこには、50数年経っても色褪せることなく読者を驚嘆させる
ダンセイニならではの腕前を見ることができる。
本書は、最後の“オチ”が、なんともブラックに記憶にこびりつく、珠玉の短編集である。