読書記録33

魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ワシントンDCを舞台にした“現代ハードボイルドの雄”ジョージ・P・ペレケーノスの
黒人私立探偵<デレク・ストレンジ>シリーズの第三作。
本書は、’03年度「ロサンゼルス・タイムズ・ミステリー/スリラー・ブック・アワード」の
最優秀賞を受賞している。
ストレンジは、まさに死刑判決が下されんとして拘置されている元ギャングのボス、
グランヴィル・オリヴァーの依頼で、減刑のために彼に有利な証言をしてくれるであろうデヴラ・ストークスという女性を捜す仕事を引き受ける。ストレンジはオリヴァーの罪を憎みながらも、彼の父親の死に対する責任に苛まれていたからだ。
一方、ストレンジの事務所にマーリオ・ダラムという男がやってきて、失踪した女の
調査を依頼した。ストレンジの相棒で若い白人のクインが女の居所を突き止めるが、実はこの件には麻薬が絡んでいた。やがてすべての糸が一本によりあわされ、
ストレンジとクインは、ストリート・ギャングの血で血を洗う縄張り争いのなかへと
巻き込まれてゆく・・・。
本書は、表面上は銃でもって簡単に人を殺すギャングの抗争を描いているが、
その奥には本筋とは別だが十代、二十代前半でたやすく銃を手に入れ、若くして
この世を去る事件の新聞記事にストレンジが眼を通しやりきれないものを感じるくだりがあるように、貧困、人種問題を背景にしたアメリカの、しかも首都の銃社会の暗部を抉り出している。
本書は、ハードボイルドの形を借りて、ペレケーノスが過酷な現実をしっかりと見据えつつ、愚直なまでに正義の信念を貫き通そうとするストレンジを主人公に配して、男の哀愁を漂わせながら、この銃問題に希望の火を灯そうとしているのである。
この『魂よ眠れ』という邦題はまさに言いえて妙である。