読書記録35

オー!ファーザー

オー!ファーザー

’06年3月から’07年12月まで、13の地方新聞に順次連載されたものに3年を経て加筆修正をほどこされた、伊坂幸太郎の18作目の単行本である。
<あとがき>で、伊坂幸太郎自らが述べているが、『ゴールデンスランバー』以後の
第二期にいたる最後の第一期の作品と言っているように、直近の、私としてはすこし
物足りなさを感じた『モダンタイムス』『あるキング』『SOSの猿』の諸編とはまた異なる、伊坂流の直球勝負のエンターテインメントである。伊坂流とは、独特の人を喰った
ような浮遊感があり、荒唐無稽な物語が現実味を帯びて展開し、いたるところに
張り巡らしたバラバラの伏線が最後に収斂するミステリーではないかと思う。
本書は『陽気なギャングが地球を回す』を彷彿させるそれぞれ強烈な個性を持つ、
4人もの父親と、高校生の由紀夫(どっかで聞いたことのある名前だ)の、友人たちも交えた、日常の中の非日常的物語である。ラストは一種のクライムノヴェルと言えなくもないが、読んでいてまるで緊迫感が感じられないのも伊坂流だ。
新聞連載ということで、毎回ヤマ場を作る必要性から、局面や話題・シーンが次々にめまぐるしく転換して、一気に読まないと物語についてゆき辛かったが、その分テンポがよく、連載ではなく、一冊になることで全体が俯瞰でき、楽しむことができた。
本書は、ありえないシチュエーションと軽妙洒脱な会話、知事選挙や不登校、イジメに試験・恋愛、練炭自殺や賭博の黒幕、たてこもりと殺し屋etc・・・といった、考えられるありとあらゆるエピソードをこめた「伊坂ワールド」の逸品である。