読書記録46

コード・トゥ・ゼロ (小学館文庫)

コード・トゥ・ゼロ (小学館文庫)

ケン・フォレットが’00年に発表した、米ソの宇宙開発競争を軸に据えた、
ポリティカル・サスペンス。例によって「記録された歴史ではないけれども、そういう
事実があったとしても不思議はない」現実味を帯びた物語になっている。
『ハンマー・オブ・エデン』では人工的に実際に地震を起こしてみせたフォレットだが、
本書では人為的に記憶を消してしまうということを見せる。“記憶を消された男”ルークは、自分は何者であるかを探るのだが、CIAのエージェントが執拗に追いかけ、命まで狙われてしまう。ルークの“記憶を消した”者たちの目的は・・・。時は冷戦さなかの
1958年。ストーリーはルークの自分探しから、ソ連に先を越されたアメリカ初の
人工衛星打ち上げという国家的な話へとスケールアップしてゆく。CIAとKGB
二重スパイの暗躍、まだ米ソの宇宙への覇権争いの力が拮抗していた時代ならではのミッションがそこにあったのだ。ラストのアメリカの人工衛星エクスプローラー>の打ち上げカウントダウンというタイムリミットまで、手に汗握る展開に読者は目が
離せない。
本書は緻密な構成のスパイ・サスペンスであるが、また、物語の間に挿入される、
1941年からのルークたちがノスタルジックに描かれ、青春期を共に過ごした男と男の、男と女の友情と愛情の挿話が、1958年の彼らの人間関係をより一層浮かび
あがらせる。特筆すべきは精神科医のビリーであり、彼女はフォレット作品に共通
する、強靭な精神力と知性、行動力を持った女性としてルークをサポートする。
本書は、まず“記憶喪失”の探求の謎があり、次にハラハラ・ドキドキのチェイス
あり、ロマンスがあり、国際的謀略があるという、いかにもフォレットらしいページ
ターナーである。