読書記録90

wakaba-mark2010-10-29

死刑台のエレベーター【新版】 (創元推理文庫)

死刑台のエレベーター【新版】 (創元推理文庫)

’56年発表、’58年邦訳の、今に至るも長く読み継がれている、ブルガリア生まれの
ノエル・カレフによるフランス・ミステリー界を代表する古典的サスペンス。’57年には、ジャンヌ・モローモーリス・ロネ主演で映画化もされている。また’10年10月には
吉瀬美智子阿部寛らの出演で日本映画としてロードショー公開もされている。
パリのとある週末のオフィスビルで輸出入会社社長ジュリアンは高利貸しの男を自殺に見せかけて撃ち殺す。“完全犯罪”成立だ。しかし犯行の証拠となりかねない書類があること思い出し、取りに戻ったジュリアンはビルの守衛によって電源を落とされた
エレベーターに閉じ込められてしまう。
ストーリーは、決死の脱出を試みるジュリアンと併行して、彼が閉じ込められている間に若いカップルが彼のクルマを盗んで郊外へ行き、そこで起こしてしまう殺人事件が
描かれる。そして、月曜日の朝、ようやく解放されたジュリアンを待っていたのは証拠もすっかり揃ったその殺人事件の容疑だった。取調べの場でも裁きの場でも、彼は自ら犯した高利貸し殺しが露見してしまうので、36時間もエレベーターに閉じ込められていたというアリバイが証明できないのだ。果たしてジュリアンの運命は・・・。
物語の前半に張られた伏線の妙。登場する何組かのカップルの追い詰められたような人間模様の数々。そして何より“完全犯罪”を目論んだものの、皮肉としか言いようのない、思いがけない偶然の罠に嵌ったジュリアンの焦燥と苦悩と恐怖。本書はそれらが重層的に積み重なった第一級のサスペンスである。