読書記録50

守護者 (講談社文庫)

守護者 (講談社文庫)

本書は、グレッグ・ルッカが26才で書き上げ、’96年に発表したデビュー長編
であると共に、番外編を含めて7作続き、“世界最強のハードボイルド”という惹句が
付けられた、プロのボディーガード(パーソナル・セキュリティ・エージェント)、
<アティカス・コディアック>シリーズの第1弾である。’97年度、PWA(アメリ
私立探偵作家クラブ)が主催するシェイマス賞の最優秀新人賞にノミネートされた。
今日から7回にわたって、本書から完結編『回帰者』までの7作を「読書記録」する。
評論家の北上次郎はかつて現在刊行中の翻訳ミステリーものの中で、マイクル
・コナリーの<ハリー・ボッシュ>シリーズを東の横綱、本シリーズを西の横綱という
番付をしている。<ハリー・ボッシュ>シリーズの長編全部と本シリーズの4作目
までの訳出が古沢嘉通であるところは興味深い。
本書で初登場する‘わたし’ことコディアックは28才。183センチ、86キロ。茶色の髪と淡い同色の瞳で眼鏡をかけ、左耳にふたつのフープピアスをはめている。
陸軍の要人保護訓練を終了し、陸軍憲兵隊犯罪捜査部に勤務、除隊して3年になり、ニューヨークで個人を保護するフリーランスのプロのボディーガードである。
ストーリーは、恋人の中絶手術に付き添った‘わたし’が中絶反対派の過激派グループから脅迫状を受けているクリニックの女性院長に、自分と16才の娘を守って欲しいと依頼されるところから始まる。間近に迫った中絶合法化賛成派と反対派双方が集う「共通基盤作成会議」に向けて、‘わたし’は3人の仲間を集めて24時間体制の警護をおこなう。しかし、警護12日目の朝、院長の自宅で娘が外部から何者かに狙撃され懸命の蘇生措置にもかかわらず命を落とす。中絶反対派の過激派グループの仕業か・・・。
執拗な脅迫はなおも続き、「会議」当日。今度は過激派の手による爆弾騒ぎが起こる。やがて暴力の矛先は院長のみならず‘わたし’にも向けられる。
とにかく、いつ、何が起こるかわからない緊迫のシーンの連続に読者は目す暇が
ない。そして事件の実行犯が判明したラスト、複数の命を失う悲惨なやるせない結果に‘わたし’は打ちのめされる。
プロ魂に燃え、タフに着実に警護の腕を振るいながらも、意外に繊細でナイーヴな
一面を持つ、等身大の青年ヒーローの登場である。