今日読み終えた本

猫丸先輩の空論 (講談社ノベルス)

猫丸先輩の空論 (講談社ノベルス)

猫丸先輩の登場である。
ー「黒いぞろっとした上着を、だらしなく肩から引っかけた小さな身体。同様に小さな顔に、仔猫じみたまん丸の大きな目。長い前髪が眉の下までふっさりと垂れた、一見年齢不詳の童顔の小男」ー著者のメイン探偵役キャラクターだ。
彼は著者が倉知淳としてデビューする前に佐々木淳という筆名(本名?)で応募した、’93年、『競作・五十円玉二十枚の謎』の「解答編<一般公募の部>」で「若竹賞」を受賞した短編ですでに主役を演じている。その後、デビュー作の連作短編集『日曜の夜は出たくない』、長編『過ぎ行く風はみどり色』、短編集『幻獣遁走曲』、『猫丸先輩の推測』、そして本書で活躍している。
彼はたぐいまれなするどい観察力と機知にとんだ洞察力で、後輩たちを煙に巻きながら、いわゆる「日常の謎」を解き明かしてゆく。
ミステリーには「日常の謎派」というサブジャンルがあり、北村薫がその元祖とされていて、加納朋子若竹七海光原百合などの諸作品がこれに属するとされているが、主人公は普通の女子学生だったりして、これほど人を喰ったエキセントリックな人物は他の「日常の謎派」の作品には現れない。
さて今回、本書で猫丸先輩が解き明かす「日常の謎」は、イラストレーターのアパートのベランダに毎朝決まって置かれるペットボトル、交通事故現場に次々と呼ばれる無線タクシー、密室状態のテントのなかで割れていた7つのスイカ、大喰いチャレンジ企画のステーキ屋から突然飛び出してしまった女子大生などなどである。
初期の頃の作品と比べるとその「日常の謎」の“どうでも良さ加減”が増してきて、緊迫感がやや欠けてきたような気がするが、今日も今日とて猫丸先輩の「日常の謎」の、あっと驚く、しかしなんか妙に納得してしまう解明はつづく・・・・。