今日読み終えた本

神様からひと言 (光文社文庫)

神様からひと言 (光文社文庫)

創業者の社訓が「お客様の声は神様のひと言」という中途入社したある食品会社で、<リストラ要員強制収容所>と呼ばれる「お客様相談室」へ左遷されてしまった涼平。個性的なメンバーに囲まれ、毎日「お客様=神様」からのクレームに翻弄される彼。どこの会社にでもありそうな、上の意見にはイエスマンぞろいの会議風景。クレームを真摯に受け止め、業務改善を全くしようとしないで「くさいものにふたをする」的な会社の体質。悪質クレーマーの痛快な撃退劇。
私自身も兼務ながら似たような「クレーム承り」の仕事の経験があるので、身につまされながら読んでいったが、物語は単なる宮仕えの悲哀を描いたサラリーマンストーリーではない。
社内の出来事と並行して描かれる涼平と半年前に出て行ってしまった恋人との関係。彼の周りの「それでも懸命に生きる」意外に魅力的な登場人物たち。涼平の「神様」は「お客様」だけではなかったのである。「神様」はハードに生きる私たちを必ずどこかで見ていてくれる。そんな希望を抱かせてくれる、それでいてなんとなく切なくほろ苦い作品だった。
著者荻原浩は、この日記で8月21日に書いた「第2回本屋大賞」2位の『明日の記憶』の著者でもあるが、そんな切なさやほろ苦さは『明日の記憶』の読後感と通底するような気がした。