今日読み終えた本

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

本書は’85年「第31回江戸川乱歩賞」を『放課後』で受賞した東野圭吾がデビュー20年にして書き上げた、卓抜なトリックを使った「本格パズラー」と哀しくも美しい「純愛小説」が融合された傑作である。
読者は容疑者Xの企てた罠に見事にはまり、著者が展開する物語世界のミスディレクションにまんまとだまされる。少なくともメイントリックは相当のミステリーファンでも10人中10人があっと驚くのではないだろうか。
そもそもこの物語は、著者が生み出した石神という、これ以上ないほどに純粋な天才数学者なくしては成り立たない。彼の存在とキャラクターが、この作品では本格パズラーとしてのトリックそのものであり、この純愛物語の核である。
天才数学者石神に対抗し、すべての謎を解明できるのはこれまた天才と称される人物だけである。ここでかつて二つの短編集『探偵ガリレオ』と『予知夢』で活躍した帝都大学物理学科第十三研究室助教授、湯川学が登場する。彼は石神のトリックを見破るが、かつての同窓生である彼を熟知しているがゆえに、いつものようにコンビの草薙刑事に全面的に協力してスパッと解決というわけにはゆかず、ひとり悩み苦しむことになる。
私は東野圭吾の作品は比較的たくさん読んでいるが、彼は’95年、広末涼子主演で映画化もされた「第52回日本推理作家協会賞・長編部門」受賞作『秘密』以来一部のマニアのなかでの人気作家から一躍全国区にブレイクした。
私はそれまでの「青春ミステリー」っぽい本格パズラー作品群も好きだが、『秘密』以降の多彩な作風で意欲的に社会問題的なテーマに挑戦する『白夜行』、『幻夜』などの最近の緻密で重厚な作品も好きだ。ただ結構多作で矢継ぎ早に新作を発表するため、読者側の私は経済的にも時間的にも追いつかない。また人気作家だけに図書館の書架もいつも貸出中で、とても残念な思いをしている。
ともあれ本書からは東野圭吾の若き「本格パズラー」スピリットと最近の円熟したストーリーテラーぶりが充分にうかがえた。
ちなみに、本書が今年私の読んだ100作品目の本となった。