今日読み終えた本

wakaba-mark2005-09-14

99%の誘拐 (徳間文庫)

99%の誘拐 (徳間文庫)

私が読んだのは今売れている講談社文庫版ではなく、初版’90年8月発行の徳間文庫版で、実に15年ぶりの再読をした。(値段も同じ文庫なのに130円安い)
再読のきっかけは本書が最近発売された宝島社のムック「2005年版この文庫がすごい!」のミステリー・エンターテイメント部門で第1位となり、久しぶりに注目を浴びて、このところまた急に売れ始めたからである。’90年当時もこの作品が「誘拐ミステリー」の傑作との高い評価を得ていて、「第10回吉川英治文学新人賞」受賞作でもあるとの紹介を何かで目にして読んだおぼえがある。
そもそも私はミステリーのサブジャンルとしての「誘拐もの」が大好きだ。理由として、①あまり殺人事件に発展しないので血腥さがすくない。②犯人と捜査側(誘拐被害者)の唯一の接点、身代金受け渡しの際の双方のやりとりの緊迫感・スリル・サスペンスが現在進行形で進む。③加えてその際の犯人側が捜査側をまんまと欺く巧緻な知的トリックの鮮やかさ。が挙げられる。数多くの「誘拐ミステリー」があるが、私のベストスリーは、高木彬光の『誘拐』、法月綸太郎の『一の悲劇』、原籙直木賞受賞作『私が殺した少女』である。これらはいずれも上記三つの「誘拐ミステリー」としての醍醐味を味わわせてくれたばかりかプラスαの魅力にあふれた作品だった。
さて本書は20年の時を隔てて起こる2つの誘拐事件の物語である。当時としては最先端のIT技術を駆使した、犯人側の少年誘拐方法と身代金奪取のプロセスは、巧緻を極めていて、あっと驚かずにはいられないが、15年経った今読んでも全く古さを感じさせない。
加えて本書の最大の魅力はすぐれた「誘拐ミステリー」であると同時に、いやそれ以上に一人の青年の20年間の恨みを込めた執念の復讐劇であるところだ。
著者は’82年に『焦茶色のパステル』で「江戸川乱歩賞」を受賞してデビューした、日本では珍しい、ふたりによる合作作家である。ふたりは’89年発表『クラインの壺』を最後にコンビを解消してしまったが、7年間に27もの作品を上梓した。私としては本書を「この文庫がすごい!」と同じ評価はできないが、二人で一人の合作作家岡嶋二人の最高傑作といっても良いと思う。