今日読み終えた本

クレタ、神々の山へ

クレタ、神々の山へ

本書は著者がNHKBS1のシリーズ企画番組に出演するため、ギリシャクレタ島の山々をトレッキングした時のエッセイ的要素の濃い紀行文である。
山を題材にした代表作を持ちながら、ほとんど山登りの経験のない出不精で運動不足の、膵臓に持病さえ持っている著者の奮闘振りが文章の端々からうかがえる。
私は紀行文というものはあまり縁がないが、今回の作品を読んで、さすが人気のミステリー作家の書いた紀行文だと思った点がいくつかあった。
紀行文だけに大景観や、目に触れた動植物などの自然や、いたるところに散在する教会・廃墟となった集落跡、そして出会ったクレタの人々を著者の見たままに活写している。
しかしそれだけでは終わらず、
1.それら大景観や植物、廃墟に住んでいた人々らの歴史ストーリーみたいなものを構築して述べている。
2.クレタで出会ったさまざまな事柄と今の日本を比較して、日本の抱える問題点を提起している。(人生の過ごし方とか、公共事業の多い土建国家であるとか・・etc)
3.「山は心に直結するスポーツであるらしい。一人で自分と向き合え、見つめることができるからこそ、山道をただ歩くという一見単純な行為に打ち込める。」ということに気づく。
私は真保裕一のファンの一人として、本書で、彼のミステリー諸作品からは聞くことのできない、「生の声」を聞くことができてとてもうれしかった。