今日読み終えた本

リセットボタン (新風舎文庫)

リセットボタン (新風舎文庫)

「第24回新風舎出版賞」優秀賞受賞作。ミステリータッチの文庫書き下ろし小説である。外資システム開発企業で50人の部下を抱える41歳の中間技術管理職、宮本照春はうつ病と幻視・幻覚に苦しんで、半年前から3軒の病院を渡り歩いていた。現在の服用薬は抗うつ剤アモキサンSSRIルボックス)、マイナー精神安定剤デパスとリーゼ)、メジャー精神安定剤(ノバミン)、睡眠導入薬(ユーロジン)、それと幻視・幻覚の発作時の頓服薬として精神刺激薬(リタリン)である。
そんな時、妻の勧めで行った4軒目の病院で精神科医・新藤に出会い「境界性人格障害」と診断される。そして彼の指示により2ヶ月間会社を休職して精神病院へ入院することに―。
堪え難い症状を抱え、極限状態で起こるさまざまな出来事、トラウマとなった過去の真実・・・。エピソードがつながりあい、妻、会社、同室の入院患者、担当医らの思惑、やがて家庭崩壊と失職という思いもよらない絶望へと流れ込んでいく。しかしそこには巧妙な仕掛けがほどこされており、驚愕のラストシーンが用意されていた。
働き盛りのエリートサラリーマンを襲った人生の「まさかの坂」。物語の冒頭から思わず主人公・宮本と自分の姿を重ね合わせてしまい、架空のエンターテイメント小説として読めなくなっていた。いかに現代が私たち中高年にとって、辛く厳しい時代であるのかを痛感した。しかし彼のようにそれを利用し、逆手にとって人生をリセットすることが本当にできるのだろうかとも思った。