今日読み終えた本

箱男

箱男

箱男

この、32年前に刊行された純文学の作品を再読するきっかけは、11月2日付のこの日記に読書記録として記した『目撃』の文中、主人公が学生時代の文芸サークル活動を追想する場面で「安部公房の新作『箱男』は・・・」と出てきたからである。
それで本箱の隅に隠れていた本書をひっぱりだした。文字通り函入りの立派な上製本だったのと、当時早々に読むのをやめたため、いつかは読むだろうと思って残っていたのだ。
箱男----ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。社会の枠組みには収まりきらず、それでいて社会に溶け込んでいる奇怪な存在。単なる浮浪者のようで異なる存在。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。途中で誰がこの小説を書いているかが明確ではなくなってくる、つまり誰が箱男か分からない。読む者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながらこの作品は記述されてゆく。
初読の時、私は高校1年生で、もう冒頭から何が書いてあるのかさっぱり分からなかったことを覚えているが、今回32年ぶりに最後まで読んだが、とってもシュールでやっぱりよく分からなかった。