今日読み終えた本

白き嶺の男 (集英社文庫)

白き嶺の男 (集英社文庫)

「山」を舞台にした小説は多く、真保裕一の『ホワイトアウト』や笹本稜平の『天空への回廊』、夢枕獏の『神々の山嶺(いただき)』などが代表作といわれており、いずれも冒険や犯罪、謀略の舞台として神聖な「山」という閉ざされた環境を選んだ傑作で、私も胸躍らせて読んだ覚えがある。
本書は’96年の「新田次郎文学賞」受賞作である。本書は宝探しやテロリストとの戦いや、囚われの身からの脱出行や、山中に逃げた敵の追跡行の物語ではない。
純粋に「山登り」そのものを題材として、限界の中で死と向かい合い、山に人生を賭ける男たちの熱い想いを描いた数少ない本格的な「山岳小説」である。
本書は6つの短編のうち5つまでが、類稀なる体力と判断力、そして登攀の技術をもつ加藤武郎を主人公にした連作短編集である。彼は作品を追うごとに伝説のクライマーとなる。活動のフィールドも、日本の山々からヒマラヤへと広がっていく。
著者自身登山家であり、7077メートルのヒマラヤのピークに立った体験があるという。豊富な山岳経験に裏打ちされた雪山のシーンなどディテールの書き込みも真に迫っていて臨場感があった。
ワクワク・ドキドキといったストーリー展開の妙やサスペンスといったものは無いが、そこには自分自身や仲間たちに対する様々な試練や葛藤を経て、雪山にかける、静謐でありまた壮絶な男のロマンが溢れていた。