今日読み終えた本

さまよう刃

さまよう刃

読者の情感にストレートに訴えることが出来るからであろうが、今ミステリーの世界では、いわゆる「犯罪被害者の人権」・「被害者」側に沿った物語がとってもトレンディーである。加えて加害者が未成年の場合は「少年法」も絡んでくるからなおさら「被害者」側の無念さが増す。
この日記の8月12日付読書記録で取り上げた今年の「江戸川乱歩賞」受賞作、『天使のナイフ』もまさにそれがテーマのミステリーだった。
本書は傑作『容疑者Xの献身』の作者、東野圭吾が「被害者の復讐」と「少年の凶悪犯罪」をモチーフに、’03年9月から1年間にわたって「週刊朝日」に連載された作品である。
不良少年たちに蹂躙され死体となった娘の復讐のため、父親は仲間の一人を激情にまかせ、めった刺しにして殺害し、もう一人の主犯格の少年を追跡して復讐を完遂させるため、逃亡する。「遺族による復讐殺人」としてマスコミも大きく取り上げる。世間の考えは賛否が大きく分かれ、警察内部でも父親に対する同情論が密かに持ち上げる。はたして遺族に犯人を裁く権利はあるのか?
本書は、読者に対して重い問題提起をして判断を迫るというより、父親の追跡行やそれを助ける女性の姿、「殺人者」となった父親に狙われる主犯格の少年を悩みながらも捜索する刑事など、もともと連載小説だけに各章ごとに視点を変えて最後まで読み手を飽きさせないドラマ仕立てとなっている。
私は心情的には父親に復讐を遂げさせたかったので、この物語のラストには釈然としないものを感じた。