今日読み終えた本

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

本書は『このミステリーがすごい!』と、『このミス』ほどメジャーではないが、原書房発行・「探偵小説研究会」編集『本格ミステリ・ベスト10』で共に今年、東野圭吾の『容疑者Xの献身』に次いで堂々第2位にランクインした作品である。
密室殺人を扱った本格ミステリーだが、探偵が密室トリックや犯人を暴くストーリーではなく、はじめから犯人と犯行方法が分かっている、TVドラマの『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のような、いわゆる「倒叙もの」のスタイルをとっている。
倒叙ミステリー」とはいえ、なぜ犯人は「密室状態」を構築してまで死体の発見を遅らせる必要があったのか、肝心の殺人の動機はなんだったのか、謎は、扉と同様に伏せられたままである。
物語は、犯人・伏見の犯行から始まり、中盤までは伏見の「事後」の成り行きを思惑通りに進めるための、臨場感あふれる心理描写中心に展開し、終盤、探偵役の女性・優佳(ゆか)と伏見との緊迫感のある「対話」へとなだれ込む。そして彼女によって事件の真相が暴かれ、最後に「密室の扉」が開かれる。
その場の皆が騙されるなか、ただひとり勘の鋭い優佳に疑問を抱かれ、伏見が焦る場面などは迫真で、おもわず手に汗握り、自分が犯人になったような気がしたほどである。
著者の石持浅海の作品は’02年の長編デビュー作『アイルランドの薔薇』をはじめ、’03年、各社のミステリーランキングの上位に選ばれた佳作『月の扉』、’04年、水族館を舞台にした話題作『水の迷宮』を読んできたが、いずれも程よい長さで、展開がスピーディで緊迫感にあふれていて面白かった。
本書もその例に漏れず、いやそれ以上に最後まで緊張感を持って、一気読みをしてしまった。さすが今年のベストテンで第2位になったミステリーである。


余談だが、そういう役回りを著者が演出したんだろうけれども、探偵役の優佳が私にはイヤミに感じられるくらいに個性的に描かれていて、ハナについてしまい、決してこういう人とはお近付きになりたくはないと思った。