今日読み終えた本

砂漠

砂漠

前作『魔王』が出たばかりだが、著者1年半ぶりの書き下ろし長編ということで、ファンとしては見逃せず、読んだ。
今回はミステリーではなく、ひとりの大学生、“僕”こと北村の視点で描かれた青春小説。舞台は著者の作品ではフランチャイズとも言うべき仙台である。
長編とはいうが、入学時の「春」から始まって、「夏」「秋」「冬」と四季の移り変わりのなかでの“僕”たちのそれぞれのエピソードを綴った4つの連作中編+掌編・卒業式の「春」で終わるという趣を持った作品のように私は感じた。
“僕”たちは、麻雀、バイト、合コン、恋愛などモラトリアムなふつうのキャンパスライフを送りながら、「ホストとのボウリング事件」や「連続空き巣事件」、「大学祭超能力対決」、「連続強盗事件(通称‘プレジデントマン’の事件)」などとかかわってゆく。よくこんなにいろいろ事件が起こるなあと思って読んでゆくと、“僕”たちの四季には伊坂幸太郎らしいある仕掛けが施されていた。
著者のいつものミステリー作品のように、摩訶不思議な設定や、いかにも人を喰ったようなキャラクター設定・ストーリー進行や、物語の終末にはすべての謎が収束する、というお話ではないので、アクロバティックな展開に対しての「やられた」という驚きは味わえない。
けれども、“僕”を始め、彼を取り巻く登場人物たちの造形には「伊坂幸太郎らしさ」が十分生かされており(特に私は西嶋くんのキャラが気に入った)、それぞれの事件とのかかわりも興味深く、浮世離れした浮遊感とでもいうのか、独特の「伊坂テイスト」を味わうことができた。


ちなみに本書が、私が今年読んだ150冊目の本となった。