今日読み終えた本

Pの迷宮

Pの迷宮

シリーズキャラクターが登場するトラベルミステリーと、人権に関わるシビアな問題などをテーマにした社会派ノンシリーズミステリーを書き分けている著者の、後者の範疇に属する’03年発表の長編大作。
あるホテルの1室で著名な精神科医が刺殺された。現行犯逮捕された加害者の主婦は、警察、検察での取調べ中も、裁判が始まってからも、その犯行動機など一切黙して語らなかった。誰かを、何かを庇っているのか。
そこには事件の6年前に主婦の娘が罹った「パニック障害」の原因と思われる、娘の幼児期のトラウマが関わっていた。
本書は事件における主婦の犯行動機の謎に絡んで、家族とは何か、脆い人間の心を自由に塗りかえることはできるのか…記憶の謎を、著者得意の「法廷」場面を舞台に描いている。これは、冤罪とか目撃の信憑性といったような著者の他の作品でも見られるテーマである。
私はもちろん専門家ではないので「パニック障害」はもとより、人の脳内の記憶構造についてはよく分からないが、本当に間違った記憶が植えつけられたりするものだろうか疑問だったし、またこの主婦のように、このような動機で人は殺人を犯せるものかとも思った。
著者もこの長い物語の結末を推論を終わらせていて、これらの問題を読者・世に問うているかのようにうかがえた。問題作であることは間違いないだろう。