今日読み終えた本

神は銃弾 (文春文庫)

神は銃弾 (文春文庫)

このミステリーがすごい!」’01年海外編第1位。’00年度CWA(イギリス推理作家協会)新人賞受賞作。
ストーリー自体はいたってシンプル。カリフォルニア州クレイ保安官事務所の刑事ボブは教主サイラス率いるカルト教団<左手の古径>一味に別れた妻を惨殺され、愛娘ギャビは彼らに連れ去られる。ボブはギャビを取り戻すため、休職し、元信者で麻薬中毒から更生中の女ケイスの助けを借りて南カリフォルニアの砂漠地帯を転々とする・・・。
三人称現在形で表現される乾いた文体と短い章立てで進行するふたりの追跡行は、ケイスが卑語だらけの台詞を吐いたりして、決して上品なものではありえないのだが、ハードボイルドでもなく、ロードノベルのごとき冒険的要素があるわけでもなく、エンターテインメントなパルプ・ノワールというより、壮大で崇高な散文詩を読んでいるような感じがした。
それは銃撃戦や追跡、逃亡など“表面”のアクションシーンもさることながら、日常をはるかに超えた異常な悪の世界での、もっと“深い”心理的なもの、登場人物同士(ボブとケイスだけでなく脇役たちも含めて)の心の動きが台詞を通してびんびん伝わってくるからだろうと思う。
欲を言えば、カルト教団<左手の古径>のスケールが、たいした教義といえるものもなく、教団と呼ぶにはあまりにも小さい。これでは狂気をはらんだサイラスをリーダーとした街の暴力グループに過ぎない。もう少し組織的な新興宗教の教団とするか、あるいは単に常軌を逸したアウトローたちという設定でもよかったのではないか。それでもこの物語の持つ強烈なうねりは決して色褪せることはなかっただろう。
それにしても、デビュー作でこれだけパワフルで魂のこもった小説を書いてしまうとは、ボストン・テランとはなんとたいした作家であることか。