今日読み終えた本

キヤノンとカネボウ (新潮新書)

キヤノンとカネボウ (新潮新書)

本書はカネボウに23年、キヤノンに10年(現在も在職中)、両方の会社で働いた著者が内側から描いた両社の生の姿である。
事実上倒産し、産業再生機構の下で再建を余儀なくされたカネボウ。一方業績を伸ばし、次期経団連会長まで出す、いまや日本を代表するグローバル企業キヤノン。その差はどこから来たのか。私だけでなく、誰もが興味あるところだろう。
読者はどうしても現在の両社の状態を前提に読んでしまう。著者もカネボウ在職中の体験談の中で、折にふれ、「あそこでああしていたら」とか「そこのところは残してもらいたい」などと述べている。また最後のところでこの点について、「両社の経営者の資質が明暗を分けた」と結論している。
けれども、本書はあくまで著者の、内部にいる人間としての体験談の数々から、読者が両社の企業風土の違いを推し量るというスタイルで書かれており、第三者の目で両社を比較分析・問題追求したビジネス書の類ではない。また、内部告発の書でもない。
“感性”で勝負する文系企業、カネボウ。“知性”による研究開発で発展してきた理系企業、キヤノン。まったく対照的な畑違いの両社での著者の仕事ぶり・エピソードの数々は、読み物としても面白かった。
たとえばカネボウ入社後、初めて配属された工場でのエピソードは、高度成長期の繊維産業の一端を垣間見ることが出来るし、化粧品部門でのエピソードは、一世を風靡したあのカネボウ化粧品の舞台裏をのぞくことができる。キヤノンの技術者中心の、堅実で規律正しく、問題解決には一心不乱に徹底的に打ち込む社風も「なるほど」と思わせるものがある。