今日読み終えた本

飛蝗の農場 (創元推理文庫)

飛蝗の農場 (創元推理文庫)

このミステリーがすごい!」の’02年海外編では第1位、「週刊文春ミステリー・ベスト10」では’02年海外部門で第3位にランクインした話題作。
なにしろ巻末の「訳者あとがき」でも「解説」でも、冒頭の言葉が「--なんだ、これは?」なのである。
私も最後の最後まですっかりこの作品の持つ独特の世界に翻弄されてしまった。
イギリスはヨークシャーの荒れ野の農場主・キャロルのところに自称・記憶喪失の謎めいた男が転がり込む。ふたりの不安定で奇妙な共同生活が始まる。一方で本編と並行するように、一見何の関係もないような数々のショートストーリーが挿入される。
たとえていえば、複数の脈絡のない物語が同時進行する、伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』を思わせるような構成に読者は幻惑される。
やがて終盤の、残り150ページ位から、それらショートストーリーが一連の流れとなって収束し、過去の連続異常殺人事件と関係していることが明らかになり、本編と結びつくのである。ここにいたってようやく物語の全体像が明らかになり、さらにエンディングでもひとひねりが用意されている。
本書の「解説」や「このミス」にはサイコロジカル・スリラーのジャンルにカテゴライズされる作品とあるが、私は、本書はいままでのジャンルには押し込みきれない、不思議な世界観と魅力を持つ、いわば“ドロンフィールド・ワールド”といったミステリーのニューカマーではないかと思う。


余談になるが、本書を訳した越前敏弥は、あの大ベストセラー、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』の訳者でもある。