今日読み終えた本

青い虚空 (文春文庫)

青い虚空 (文春文庫)

ハラハラ・ドキドキの連続で読み出したらやめられない。なにしろスリルとサスペンス
あふれる物語、いわゆる‘スリラー’ エンターテインメントの第一人者、ジェフリー・ディーヴァーの手による小説である。彼のモットーは「続きに夢中になった読者に電車を
乗り過ごさせて、仕事に遅刻させたい」というものだから。
本書のテーマは、ここ最近<ウィニー>による情報流失が話題にもなっているコンピューター・ネットの世界である。
今回の敵は、‘フェイト’と名乗る、現実の世界とネット上の世界の区別がつかなくなり、常軌を逸した殺人を繰り返すコンピューターの天才ハッカーである。彼は自ら生み出した<トラップドア>と称する技術により、堅固なセキュリティーも易々と打ち破って、
個人や組織のコンピューターに侵入し、プライバシーや機密事項をハッキングする。
そしてそれらの情報をもとに相手に疑いを抱かせない人物に完全に成りすまし(文中では「社会工学」とよんでいる)、連続殺人鬼として神出鬼没に暗躍するのである。
捜査当局は‘フェイト’に匹敵する能力を持ち、現在刑務所に服役中のジレットを一時釈放し、彼の技術を利用することで事件の解決を図る。かくして天才ハッカー同士の
知力を尽くした闘いが始まる・・・。
ジレットたちは、何度も ‘フェイト’を追い詰めるのだが、あと一歩というところで逃げられる。どんでん返しとサスペンスの連続で読者は息をつく暇がない。まさにジェットコースター・ノベルである。
また本書は、全編に渡ってコンピューター・ネットのラビリンスが詳細かつ専門的に
展開されている。いつもながらディーヴァーの綿密な取材力とストーリーテリングには脱帽である。
フィクションではあるものの、私はネットにつながるコンピューターさえあれば、この物語にあるようにどんな犯罪でも、いや犯罪に限らず何でもいともたやすくできてしまう、
その将来性、可能性そして万能性に空恐ろしいものを感じた。