今日読み終えた本

wakaba-mark2006-04-01

心の砕ける音 (文春文庫)

心の砕ける音 (文春文庫)

本書は、トマス・H・クックが『記憶』シリーズ4作品に次いで’00年に書いた作品で、 日本では「このミステリーがすごい!」の’01年海外編で第5位にランクインしている。
1930年代後半、舞台はメイン州の小さな港町。性格こそ対照的だが、穏やかな中流家庭に育った仲のいい兄弟がいた。ある日、どこから来たとも知れぬドーラと名乗る
若い女性がこの町に住みつく。やがて彼女をめぐり、ふたりの兄弟の運命は大きく揺れ動き、弟は血とバラの花の海の中で絶命し、兄はその死と、そして同時に失踪したドーラの謎に取り憑かれる。
物語はこの兄‘ぼく’がそれらの謎を解くため、ドーラの足跡を追うというかたちで語られる。この探索は、ドーラの過去へと伸び、ついにニューヨークからカリフォルニアへ、彼女の出生地までさかのぼる。そこで20年前に起こった悲惨な事件が明らかになる。そして物語の真相(ドーラの素性と弟の死の謎)は予想もつかない、本格謎解きミステリー並みの意外なものだった・・・。
<現在>の‘ぼく’のドーラ探索行の合間、知らないうちに、この1年、ドーラが現れてから失踪するまでに‘ぼく’の周りで起こった<過去>の事件やエピソード、それらに
ついてドーラと交わした会話などが交錯する。このあたりの表現手法は『記憶』シリーズでみせたクック独特の情緒が漂う、ミステリアスな作品世界である。それゆえ、事件の薄皮が1枚めくれるたびに、ドーラや弟や‘ぼく’の人生の薄皮もめくられていくような不思議な感じがするのである。
またエンディングは『記憶』シリーズとは異なり、温かい余韻をはらんでいるのが特長的である。
本書は『記憶』シリーズを超えたクックの名作である。

ちなみに、本書を原作にしたドラマ「心の砕ける音 〜運命の女〜」が、昨年WOWOW鈴木京香主演により制作・放送され、現在DVDになっている。(写真右上)