今日読み終えた本

wakaba-mark2006-05-01

最後の審判〈上〉 (新潮文庫)

最後の審判〈上〉 (新潮文庫)

最後の審判〈下〉 (新潮文庫)

最後の審判〈下〉 (新潮文庫)

本書は、著者の法廷サスペンス三部作の完結編とされている。
前々作『罪の段階』(当日記3月30日付「読書記録」に記す)では判事を、前作『子供の眼』(同4月22日付に記す)では弁護士をつとめたキャロライン・マスターズが今回は主人公として3度目の登場をしているからである。
しかし前の2作とは趣が異なり、本書はじっくり読ませる“キャロライン自身”の物語になっている。またまた文庫上・下巻分冊の大作である。
大詰めの法廷場面で、証人たちに対して、次々と検察側の主張を覆し、論破してゆくキャロラインの見事な手腕もスリリングに描かれてはいるが、それも本書全体の4分の1ほどの部分を占めるにとどまり、全編にわたって読み応えのある“ひとりの女の
物語”が展開するのである。
このミステリーがすごい!」では’02年海外編第21位。
惜しくもベスト20圏内のランクインは逃している。
20年にわたり、野心に燃えてひた走ってきたキャロラインは45才。ついに大統領から合衆国控訴裁判所判事に指名される。そんな時、父からの電話で故郷のニューイングランドの町に呼ばれる。22才になる姪のブレットが殺人事件に巻き込まれたのだ。
彼女はある夏の夜、マリファナとワインによる前後不覚の酩酊状態で、血まみれの
ナイフを持って体じゅうに血しぶきを浴び、全裸で保護される。湖畔には喉をかき切られて殺された恋人の死体が・・・。状況は明らかにブレットの犯行を示していた。
キャロラインはブレットを弁護するべく、23年ぶりに帰郷する。
<現在>の殺人事件についての記述や予審法廷の場面と交錯して、キャロラインの、母を失った13才の夏と、恋人を失った22才の夏。ふたつの<過去>がふり返られており、傷ついて、2度と戻るまいと誓って故郷を後にする若き日の彼女の姿が痛々しいまでに伝わってくる。
終盤で<現在>の事件の真相とキャロラインの<過去>の秘密が明らかになるが、それらはいずれも家族の愛憎が絡む悲劇的な哀愁が漂い、私はトマス・H・クックの『記憶』シリーズの各作品を想いおこした。
前の2作がカットバック式の三人称多視点で書かれ、スピーディーな展開で読み始めたらやめられない(ページターナーと呼ばれる)法廷エンターテインメントに徹しているのに対して、本書はキャロラインを中心に据えた三人称一視点が貫かれ、そのぶん
文学的な深みを醸し出している。
本書は、家族が関わる殺人事件とその公判をきっかけとしてキャロラインという“ひとりの女”をドラマチックに描ききった傑作である。