今日読み終えた本

ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)

ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)

ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)

ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)

本書は、『サイレント・ゲーム』で弁護士トニー・ロードと法廷で論戦を繰り広げた辣腕の女性検事補ステラ・マーズが主人公になっている。パタースン得意の「スピン・オフ」(ある作品の登場人物が、後の作品で今度は主役を演じること)の仕掛けである。
ただし本書は、『罪の段階』以降、どの作品にも共通していた法廷場面を中心とした
リーガル・フィクションではなく、やや重厚なポリティカル(政治)・サスペンスになっている。
’04年、「このミステリーがすごい!」では海外編第7位にランクインして、
週刊文春ミステリーベスト10」では海外部門で次点(第11位)になった作品である。
アメリカの五大湖のひとつエリー湖を望むスティールトン(架空の都市)はかつて製鉄で栄えていたが、今は斜陽の都市だった。折りしも市長選挙を目前に控え、新しい
野球場建設を柱とした都市再生プロジェクト“スティールトン2000”を掲げる現職市長と黒人初の市長を目指す郡検事とが争っていた。ステラも後釜の郡検事の座に並々ならぬ野心を持っていた。
そこでふたつの事件が起こる。ひとつは野球場建設の責任者の変死で、もうひとつは10数年前ステラの恋人だった弁護士の惨殺だった。郡検事の命を受け、検察局殺人課の課長として、彼女は市警察刑事部長ダンスと共に捜査に乗り出す。
関係者や目撃者を訪ねるうちに、ふたつの事件が市を蝕む麻薬に絡んだ同一犯によるものだと判明する。そして、目撃者の一人である娼婦が殺され、ステラ自身にも魔の手が伸びる・・・。見え隠れするのは市長選挙にも関係し、市政に大きな影響力を持つ黒幕・麻薬組織のボスだった。
第四部に至り、ついにステラは殺人実行犯を含め、すべての謎を解明する衝撃的な
映像をおさめた一本のビデオテープを見つける・・・。その先には予想外の悲劇が
待っていた。
パタースン最大のセールスポイントである法廷場面がないのは残念だが、ふたつの殺人事件を軸に展開してゆく本書は、それ自体の謎や、法の正義、市政に絡む黒い霧、麻薬問題と黒幕、人種問題、親子や男女の愛憎などのテーマを幾層もクロスオーバーさせた意欲作である。


さて、これからパタースンを読まれる方は、実力作ばかりなのでどれから読んでも十分楽しめるが、私の経験から次の順に読むことをお勧めする。上述の「スピン・オフ」の仕掛けの関係でよりいっそう理解が深まり、興味深く、面白く読むことができる。
(できれば『ラスコの死角』)→『罪の段階』→『子供の眼』→『最後の審判』→(できれば『サイレント・スクリーン』)→『サイレント・ゲーム』→『ダーク・レディ』。