今日読み終えた本

夜市

夜市

’05年「第12回日本ホラー小説大賞」大賞受賞作。
また、’05年下半期「第134回直木賞」の候補作でもある。
日本ホラー小説大賞」は過去に、’95年、瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』や
’97年、貴志祐介の『黒い家』など、共に映画化された名作を送りだしているだけに、この、ほとんど文句なしに大賞に決まったという作品を期待して読んだ。
本書は表題作と『風の古道』という作品が併録されている。どちらも似通った設定の
作品で、アニメ映画『千と千尋の神隠し』のような異世界に迷い込んだ主人公を描いている。
ホラーと名のつく賞の大賞でありながら、本書は生理的な恐怖を感じさせる描写や、
人間の奥底に秘められた狂気の言動・心理表現などはまったくなく、背筋がゾクゾク
するような怖さは感じない。
「欲しいものを手に入れたい」そして「手に入れたあと、さいなまれる罪悪感」、さらに「失ったものを取り戻す」といった人間の持つさまざまな欲望や感情が、むしろ全編にわたって抒情的につづられていて、私は少年時代に夢想・空想したような一種ノスタルジックな世界を思い出した。また、実際には存在しえない者や物が登場したり、起こりえない現象が描かれたりしているにもかかわらず、不思議とそれぞれの場面が明瞭な映像として頭に浮かんできた。
本書は「身も凍りつくホラー」をしのぐ、アニメなどに映像化もできる「ファンタジー・ホラー」とでもいうべき文学作品である。