今日読み終えた本

wakaba-mark2006-06-27

サイレント・ジョー (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サイレント・ジョー (ハヤカワ・ノヴェルズ)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」・通称エドガー賞の’02年度最優秀長編賞受賞作である。著者は『カリフォルニア・ガール』で、’05年度、再び同賞を受賞している。これは私の知る限りでは、ディック・フランシスの3回受賞(’70年度『罰金』、’81年度『利腕』、’96年度『敵手』)に次ぐ快挙である。
日本では’02年「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第1位、「このミステリーがすごい!」海外編第2位になっている。
保安官補であるジョーは24歳。刑務所の看守の仕事に出向している。赤ん坊の頃、実の父親に硫酸をかけられ、今も顔に醜い傷痕が残っている。施設に預けられていたが5才の時に引き取られ、養父母に愛情を持って育てられた。礼儀正しく、人呼んで‘サイレント(静かなる)・ジョー’。
6月半ばの夕方、敬愛する養父・南カリフォルニア・オレンジ郡郡政委員のウィルとともに、ある場所に物を届けた後、ひとりの少女に出会う。そして霧の立ち込めるなかで
5人の男たちに襲われる。養父はジョーの眼前で撃たれ、病院に着いた時には息絶えていた。
身を貫かれるようなショックを受けたジョーは、仇を討つべく、FBIの捜査官や保安官事務所の刑事らの助けを借りながら、真相を追う。
初めは、ある富豪の娘の誘拐に絡んだ事件だと思われていたが、やがてその背景には、現代アメリカ社会の持つ病巣とも言える、人種と貧富の差、富裕階級の傲慢さと腐敗、政治上の権力闘争による利権の奪い合いが見え隠れしてくる。そして、それらに関わるウィルの複雑な人間関係と、彼の暗い‘裏の顔’が明らかになる。
番犬のごとく養父の言うことだけを忠実に守ってきたジョーは、今や自ら考え、行動する。それがどんなに醜悪なものであろうと、真相を知ること、そして復讐することに対して、ジョーはクールなまでに迷わない。また彼は、真剣な恋愛も経験する。
本書は惹句に“感動のミステリ”という謳い文句が書かれているが、私は、淡々とした一人称の叙述で進行するストーリーのなかに、むしろハードボイルドな、“若者の成長物語”を見た気がした。