今日読み終えた本

wakaba-mark2006-06-24

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)

嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)

嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)

中谷美紀主演でミュージカル仕立ての映画になったことにより(写真右上)、
’03年に書かれた本書は、原作として一躍ブレイクした。
川尻松子の、23才の新任中学教師時代から53才で孤独な死を迎える、昭和45年から現在までの波乱の生涯を描いている。
松子の存在すら知らなかった甥が、彼女の辿った人生を追跡してゆく章と、松子自身が実際の出来事を語る章とが交互に交錯して、ストーリーが展開してゆく。
彼がつかんだ事実から謎が広がり、それを松子の一人称が明らかにしてゆくのだ。
さすがはミステリーの新人賞で世に出た著者ならではの、読み手の関心を先へ先へとどんどん進ませ、ページを繰る手を休ませない叙述スタイルである。
一般に本書は「転落の人生」、「男運のない女」、「流転の生涯」の物語として受け止められるのだろうが、私は読み終えてまた別の印象も受けた。
松子は、最初と最後の事件を除いて、情熱的で激情的な性格ゆえ、「今はこれしかない」、「思い込んだら命がけ」とばかりに、自ら過酷な状況に飛び込んで、いずれも裏目に出て幸せにはつながらないのだが、その時その時を精一杯生きたといえるのではないだろうか。
だからこそ、彼女の生き様の凄まじい迫力とか情念といったものに心を突き動かされ、能天気で軽薄大学生だった甥は、はじめは興味本位だったものの、次第に松子の
人生の軌跡を追うことに没頭し、ついには裁判所の傍聴席で激高するまでになるのである。彼は単に松子の生涯の悲運に同情しただけではないと思う。
本書では、松子の41才から50才までがわずか1ページで記されているだけだが、
彼女は40代の10年間分をそれだけで済ませられるほど、それまでの20年弱を
“激しく”、“濃く”生きたのである。