今日読み終えた本

愚行録

愚行録

東京創元社のミステリー専門誌<ミステリーズ!>に’05年連載された小説を単行本化した、著者の最新作。
宮部みゆき直木賞受賞作『理由』を彷彿とさせるような、全編ルポライターの取材に応ずる6人の“証言談話”で進んでゆく。
「ええ、あの事件のことでしょ?どうしてわかるのかって? だってあの事件が起きて
から一年間、訪ねてくる人みんな同じことを訊くんですから・・。」という調子である。
モチーフとしているのは、どうやら数年前、都内で実際に起こった、今も未解決の
‘一家惨殺事件’のようだ。
はじめのうちは「まさかあの人が」、「人の恨みを買うような人ではない」だったものが、そのうち「彼女にはああいう死に方がふさわしい」、「彼を殺したのがあの人でも不思議はない」というものが出てくる。
エリートビジネスマンの夫と美しいセレブ妻の仮面は、学生時代・独身時代の数々のエピソードが他人から語られることによって徐々に剥がされてゆくのである。
それらに、冒頭の“育児放棄による3歳女児衰弱死の新聞記事”と、合間に挟み込
まれる“ある妹の、兄に呼びかける謎の独白”が加わる。この3件がどう絡んで、
話がどの方向に向かってゆくのか・・・。そして最後の“独白”で怒涛の結末が・・・。
“インタビュー”と“独白”は、出来事が生理的に読者に伝わってくる、臨場感に満ちた
スタイルである。次第にエスカレートしてくる生々しい暴露内容に、私は読んでいて
嫌悪感すら抱いた。
本書で著者は、語る方も語られる側も、あるいは誰しもが持っている、人間の奥底に
隠された‘愚かな、’ 嫌らしい部分をじわりじわりと、実に効果的な表現手法を使って
あぶりだしている。

貫井徳郎は、ときどき、読後感がすっきりしない、こういうイヤ〜な感じの小説を書く。