今日読み終えた本

エンプティー・チェア

エンプティー・チェア

ジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライム>シリーズ第3弾。
’01年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第3位、「このミステリーがすごい!」海外編第11位。
今回の事件は、脊髄再生手術のために、アメリ東海岸南部のノースカロライナ州を訪れたライムが、地元保安官の要請を受けて、猛暑の中、町一番の問題児
‘昆虫少年’が犯したとされる殺人事件と連続誘拐事件の捜査をおこなうというもの。付添いはアメリアと介護士のトムだけで、ライムは現地の保安官補たちや臨時の鑑識助手の協力の下、不十分な状況で取り組まなければならない。
それでもライムは、例によって、肉眼では見えないような微細証拠物件を手がかりに
して、試行錯誤の末、被害者の女性ふたりの監禁場所に着実に迫ってゆく。
その科学捜査の過程は本書の、いやこのシリーズの読みどころである。
そして、少年の無実を信じるアメリアがとった捨て身の行動から、思いがけず、
“追う”リンカーン・ライムvs“追われる”アメリア・サックスという、師弟コンビの対決が
起こってしまう。
さらに、アメリアが誤って保安官補を射殺したり、監禁された女性が何者かに襲われ
たり、衝撃的なエピソードがつぎつぎと続く。
物語の大半は逃避行と追跡行で占められているが、ラスト100ページを切ったあたりからは、がぜん目が離せなくなる。壮絶な銃撃戦、重傷を負うトム、ライムがたどり着いた真相、アメリアの裁判、そして何よりも最後にページを閉じるその時まで、
「これでもか」と展開される“どんでん返し”の連続は、一気読み必至であり、読者に
息つく暇を与えない。
本書は、前の2作とは趣が異なり、主役をも凌駕しかねない強大な敵との対決という構図ではない。しかし、スケールの大きさでは決して引けをとらない。事件のバックに巣食っていたのは、町全体に影響を及ぼす、恐怖の、そして唾棄すべき腐敗だったのだ。


余談になるが、これもディーヴァーの名作『静寂の叫び』(7月14日付「読書記録」に記す)の主人公、FBIの人質解放交渉人アーサー・ポターがライムの知人ということで、名前だけ登場する。もう引退しているとのことだが、ファンにはこういう些細な演出が
こたえられないものだ。