今日読み終えた本

蒼穹のかなたへ〈上〉 (文春文庫)

蒼穹のかなたへ〈上〉 (文春文庫)

蒼穹のかなたへ〈下〉 (文春文庫)

蒼穹のかなたへ〈下〉 (文春文庫)

英国が生んだ‘稀代の語り部’、ロバート・ゴダードの長編第4作。
デビュー作『千尋の闇』(6月8日付「読書記録」に記す)で早々とベストセラー作家の
仲間入りをして、第2作『リオノーラの肖像』を当時のメージャー英首相が愛読していると報じられ、話題を呼んだ。
本書も高い評価を受け、日本でも’97年、「このミステリーがすごい!」海外編第6位にランクインしている。
身に覚えのない罪で会社を追われ、ギリシャロードス島で別荘の番人として
酒に溺れながら暮らす、世を拗ねた53才の男、ハリーが主人公である。
別荘を訪れ、彼と親しくなった若い女性ヘザーが、ある日突然失踪する。殺人の
疑いまでかけられたハリーは、9年ぶりに祖国イギリスに戻り、ヘザーが残した写真を手がかりに、かつて彼女が姉の死の謎を探るために通り過ぎた道を辿りながら、行方を追う。やがて彼は、自分が大きな陰謀に巻き込まれたことに気づくのである。
上巻でのハリーの地道なヘザー探索行から引き続いて、下巻ではさらに舞台と局面がめまぐるしく変わっていく。それはさながらロールプレイング・ゲームのようで、ハリーもその度に自己回復のレベルアップを重ねてゆく。
ハリーの探索行(捜査と言ってもいいだろう)によって、ゴダードの小説の特長である、複雑な入れ子構造のように幾重にも重ねられた謎が、ベールを剥ぐように明らかに
されてゆく。その展開は鮮やかであり、そしてすべての謎が解けた時、ハリーは・・・。
本書は英国で’90年に発表されながら、邦訳は’97年と、7年の歳月を要している。初期のゴダード作品はこのように日本では不遇をかこっていたが、本書の成功に
よってようやくストレートにゴダードが評価されるようになった。そういう意味でも本書は記念碑的な作品である。