今日読み終えた本

行方不明者

行方不明者

昨年11月の『グッドバイ--叔父殺人事件』以来の、折原一42作目の最新作である。
本書はお馴染みの<・・・者>シリーズの書き下ろしである。
叙述ミステリーの第一人者”、“語りの魔術師”、と呼ばれる折原一の著作ペースは
ほぼ1年1作なので、ファンにとっては年に一度のお楽しみだ。
埼玉県蓮田市で、一家4人が忽然と姿を消した。朝食を食卓にのせたまま・・・。
ライターの‘私’こと五十嵐みどりは、取材を通じて、家族の“闇”を浮き彫りにしてゆく。同じ頃、売れない推理作家の‘僕’は、謎の通り魔事件に遭遇して・・・。
折原作品の特長は、過去から現在へとつながる一連の事件をばらばらのピースに
分解して、さも「同時進行の別々の事件・エピソード」のように“見せかけ”てストーリーを進行させてゆくところにある。
それらは一般のミステリーで言うところの「伏線」とは異なり、まさに“叙述・語りのミステリー”の体裁をとっている。そしてラストで「過去」と「現在」が激しく交錯して、それぞれのピースがひとつの時間軸のなかで見事にはめ込まれ、真相へとなだれ込むのである。
読者はそれぞれの事件の関連と、落ち着く先が最後まで分からない。知らないうちにサスペンスフルなストーリー展開に没頭してしまい、最後の最後に騙されていたことに気づくのである。
本書も、その例外にもれず、一家4人失踪事件とそれに先立つ一家4人惨殺事件、
そして通り魔事件という、一見して別々の同時進行に見える事件が、どうつながって
くるかというのが最大の読みどころになっている。
本書で読者は、エンターテインメントに徹した、一般のミステリーとは一線を画した、
独特の“折原マジック”を堪能することができる。