今日読み終えた本

wakaba-mark2006-08-19

僕たちの戦争 (双葉文庫)

僕たちの戦争 (双葉文庫)

’03年〜’04年『小説推理』連載に、加筆訂正し単行本化された作品。
さすがは荻原浩の小説らしく、前半から中盤はユーモアもあって面白く、ラストになるにしたがって、やがて哀感が漂う傑作である。
2001年に生きる“根拠なしポジティブ”のフリーター・健太と、1944年(昭和19年)の「海の若鷲」にあこがれる海軍飛行訓練生・吾一が時空を超えて入れ替わった!
ふたりはそれぞれ時間をかけて順応しつつ、なんとか元の時代に戻ろうとする。
私は読んでいて、果たして彼らのうち、どちらが本当に幸せなのだろうかと真剣に考えさせられた。
普通なら、平和で、物が溢れんばかりに豊かにそろっている現代に来て、ミナミという恋人までいる吾一の方が幸せなんだろうけれども・・・。境遇の変化に大いに戸惑う
吾一の姿は実にコミカルに、そしてシニカルに描かれており、渋谷の街で彼は疑問を持つ。「これが、自分たちが命を捨てて守ろうとしている国の50年後の姿なのか?」
ここらあたりに荻原浩の痛烈な世相風刺が見られる。
一方、健太の方は笑うに笑えないマジヤバな状況である。厳しい軍律や、上官の
理不尽なシゴキの世界に放り込まれたのだから。しかし彼は音を上げることなく、耐え抜いていく。戦争という間違った目標に、皆が無理やり向かわされていた時代。若者にとって「死」が「名誉」であった時代。しかし今以上に「家族の愛情」、「戦友たちとの友情」、「人と人とのふれあい」が細やかで豊かであったように描かれている。私は戦争にはもちろん反対だが、元の世界に戻るという目的を持った健太にとってはそういった情愛に支えられながら、“超えられる”ハードルだったのではないか。
8月は何かと戦争関係の本やドラマ、ドキュメンタリーや映画などが注目される月だが、本書はそんななかで肩が凝らずに読める、“戦争モノ”の一冊である。


本書を原作としたスペシャルドラマが、9月17日(日)の夜9時にTV放映される。