今日読み終えた本

葬儀屋の未亡人 (ハヤカワ文庫 NV (1001))

葬儀屋の未亡人 (ハヤカワ文庫 NV (1001))

‘10割打者’フィリップ・マーゴリンの6作目の長編である本書は、彼の代表作と言われている。
上院議員再選を目指して熾烈な予備選挙戦をくりひろげているエレン。ある夜自宅に強盗が侵入、葬儀産業の大企業グループの経営者であるエレンの夫が殺害される。もと警官でもあるエレンは強盗を射殺する。しかし警察の捜査は思わぬ方向へ動き、エレンが殺人罪で起訴されてしまった。そして、その裁判を担当することになった高潔な人柄で知られるクィン判事に対し、実に巧妙な罠がしかけられる。裁判をある方向に誘導するように脅迫されるのだが・・・。
特に第三部などは、苦悩するクィン判事を主軸に据えて、得意の法廷場面に加えて、脅迫あり、襲撃あり、殺人事件ありと、息つく間もない展開で、作品の持つサスペンス
フルなスピード感に圧倒され、ページを捲るのがもどかしいほどである。
事態は二転三転し、終局に向かって予測不可能な連続逆転技の連続で解決編の
第四部、衝撃のクライマックスに突き進む。
ともあれ、マーゴリンの真骨頂である緻密なプロットが生み出す疾走感に、クィン判事の危機と内面の葛藤、判決に際して重要な役割を果たす血痕の鑑定方法の証言、
ポートランドカリブ海の島、シアトルといった多彩な舞台設定など、本書は読者を飽きさせない趣向がぎっしり詰まった、これぞ“エンターテインメント”といった作品に仕上がっている。‘10割打者’は健在である。