今日読み終えた本

死の教訓(上) (講談社文庫)

死の教訓(上) (講談社文庫)

死の教訓(下) (講談社文庫)

死の教訓(下) (講談社文庫)

ジェフリー・ディーヴァーが『眠れぬイヴのために』や『静寂の叫び』で“ブレイク”する
以前の、’93年に発表した作品である。現在の<リンカーン・ライム>シリーズに見られる、畳みかけるようなサスペンスの連続劇とはまた一味違った人間関係ドラマが、文庫にして上・下巻あわせて773ページにわたって展開される。
インディアナ州の地方都市ニューレバノンで半月の夜に、地元オーデン大学の学生
ジェニー・ゲベンが暴行を受けて殺されるという事件が発生する。そして、血で描かれた半月が町の建物6箇所に一夜にして出現した。地元新聞は1年前の女子大生撲殺事件との関連もにおわせ、犯人を“ムーン・キラー”と呼び、町は騒然としてくる。
捜査主任のビル・コードは被害者ジェニーの奔放な交友関係を洗うが、満月の夜に
新たな犠牲者が出てしまった。一方でビルには学習障害をもつ娘セアラの教育をめぐって悩みがあり、高校生になる息子ジェイミーが最初の事件の目撃者であったことがわかり、事件が彼の家族にも暗い影を落としてくる・・・。
本書は、粘り強さが取り柄のビルを中心に据えた、警察捜査小説である。と同時に、
娘セアラの障害のこと、何も問題がないと思われた息子ジェイミーの突然の離反、
妻ダイアンとの気持ちのすれ違い、など家族に関する懊悩が丁寧に描かれており、
コード家の家族小説でもある。また、大学内部の赤裸々な実態をえぐりだした学園
小説の側面も持っている。
さらには、映画のカットバックの手法を取り入れた叙述方法をとっていたり、各章の
終わりに次章につながるサプライズがあったり、そして、予測不可能な“どんでん返し”も・・・と、荒削りながら現在のディーヴァーを彷彿させるものがある。
本書は、“ブレイク”以前のディーヴァーをじっくり味わうことができる作品である。