今日読み終えた本

ヘルズ・キッチン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ヘルズ・キッチン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、ジェフリー・ディーヴァーの<ジョン・ぺラム>シリーズ3部作の第3作にして
シリーズ完結編である。長い間お蔵入りになっていたが、’01年に完成・発表された。
今回の舞台はニューヨーク、マンハッタンのヘルズ・キッチン。本書は全編にわたってヘルズ・キッチンという土地(地域)とそこに住む人々をフォーカスした物語になっている。
「ヘルズ・キッチン」とは、もともとイーストサイドにあった酒場の名前だったらしいが、
南北戦争の後、八番街の西側に面した広い地域の呼び名になったという。
20世紀になってからも、長らくギャングの巣窟のように言われ、貧困層の暮らす一画
だった。近年、再開発が進んでいる。
ペラムは3ヶ月前に映画のロケーション・スカウトという放浪生活を中断して、≪八番街の西--ヘルズ・キッチンの口述歴史≫というドキュメンタリーを撮るために、マンハッタンに腰を落ち着けた。また、彼にはある個人的な目的(物語の中盤にヒントが提示され、ラストでその秘密が明かされる。)もあった。
物語は、ペラムの撮影現場であるアパートの放火による火災から幕を開ける。逮捕された老婦人の無実を信じるペラムは真犯人の放火魔を捜し始める。やがて彼の前に現れるのは親のいない少年、アイルランド系やキューバ系のギャングたち、地域再開発のためのタワービルを建築中の不動産王など、ヘルズ・キッチンに関わる者たちだった。
3部作で一番新しい作品だけあって、全体的におとなしめながらも、二転三転する
ストーリー展開、意外な真相、いったんは解決したかに見えた事件の最後のツイスト
といった、近年のディーヴァーらしさは前2作以上である。
しかし本書の読みどころは、波瀾万丈のサスペンスとかペラムと放火魔との対決
というよりは、物語の根底に流れるヘルズ・キッチンという大都会の裏側の感傷とか、
そこに生きる人々の哀歓ではないだろうかと思う。


私にとって、この<ジョン・ぺラム>シリーズ3部作はとても楽しい読書体験となった。
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