今日読み終えた本

出生地 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

出生地 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」
・通称エドガー賞の’05年度最優秀新人賞受賞作である。また、アメリカ図書賞(ABA賞)など、メジャーな賞をいくつも受賞しているという。
ちなみに、訳者の池田真紀子はジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライム>シリーズ全作品の訳者である。私が本書を選んだのは、彼女が訳したディーヴァー作品のファンだからでもある。
1980年の東京を舞台に、あるアメリカ人女子大学院生、リサの失踪事件の謎を追うミステリーの形をとりながら、“人の居場所、あるいはアイデンティティー探し”をテーマとした物語になっている。
ストーリーは、3人の主な登場人物の視点から描かれた物語が交錯する構成になっている。
ひとり目は、在日アメリカ大使館に駐在する新任外交官、トム。白人と韓国人のハーフである。彼は公として「リサ捜索」の傍ら、プライベートでは女流写真家と不倫を重ねる。
ふたり目は、警視庁麻布警察署の窓際警部補、太田。彼も公として「リサ捜索」に奔走するが、プライベートでは14年前に別れて離日した妻が子連れで帰国していて、しかもその子が自分の子供ではないかと衝撃を受ける。またマンションのオーナーとも
恋愛関係になる。
最後はリサである。彼女は日本人と黒人のハーフで、表向きは「博士論文のリサーチ」のためだが、実は“ある目的”を持って来日したのだ。
このリサが東京で謎めいた失踪を遂げたとき、3人の運命が交差する。彼女の失踪の真相は・・・。そして、3人がそれぞれ模索の末に見つけた“居場所”とは・・・。
私は、結末が少しあっけない感じを抱いたが、本書は、人生のどこかの時点で一度は立ち止まって考えざるを得ないような問題を提起する、意味深い作品だと思った。
また、在米コリアン三世とはいえ、外国人作家の目を通して、アメリカの小説の中で描かれた1980年当時の、日本の政治、経済、社会、風俗、習慣、また海外情勢も、よく取材されており、興味深かった。